健康長寿をめざして
100歳以上の人口の推移と長寿の課題
日本における100歳以上の人口は、1963年には153人でしたが、2024年には約9万人にまで増加しました。さらに、毎年その数は過去最多を更新し続けています。
来るべき「人生100年時代」において重要なのは、寿命と健康寿命の間に約10年の差があることです。「どうすれば長生きできるか?」という問いから、「どうすれば幸せに長生きできるか?」へと視点を変え、健康的な長寿を実現するための工夫を考えます。
百寿者の健康状態と生活の質
100歳以上の高齢者(百寿者)の病歴を調べると、75~79歳の高齢者と同様に、高血圧、骨折、白内障が多いことが分かっています。一方で、がんや脳卒中などの生命に関わる疾患の割合は低く、糖尿病に至っては6%と、一般的な高齢者と比べて半分以下でした。糖尿病にならないことが百寿者になるためには重要です。
また、百寿者の中でも自立した生活を維持できる人は、105歳、110歳とさらに長生きする可能性が高いことが分かっています。そのため、長寿を目指すには、認知機能を保つことが重要なポイントになります。
健康長寿のための身体的要因
百寿者の検査データによると、NT-proBNP(心機能)、シスタチンC(腎機能)、コリンエステラーゼ(肝機能)、アルブミン(栄養状態)、インターロイキン-6(炎症)などの数値が死亡リスクと関連していることが分かっています。つまり、寿命を左右する要因として、心臓・腎臓・肝臓などの重要臓器の老化と慢性的な炎症が影響を及ぼしていると考えられています。希望があれば、当院で調べることもできます。
また、加齢により身体の予備機能が低下することで、健康障害に対する脆弱性が高まる状態を「フレイル」と呼びます。フレイルを予防するためには、適切なタンパク質を摂取し、栄養状態を整えることが大切です。
精神的健康と幸福感の維持
高齢者心理学の研究によると、百寿者は家族や友人との死別を経験することが多いにもかかわらず、幸福度が下がりにくい傾向があることが分かっています。その背景には、「あるがままの自分を受け入れること」によって、人生観が変わり、幸福感が高まるという心理的な変化があります。この考え方を「老年的超越」と呼びます。
「一人でいるのも悪くない」「見栄を張ることがなくなった」「良いことも悪いことも深く考えすぎなくなった」といった変化が見られるようになることで、加齢に伴う身体機能の低下があったとしても、精神的健康を維持し、より豊かに人生を楽しむことができるのです。